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episode45 「私の世界に貴女を虐げる人はいません」

Auteur: 小鳥遊梓
last update Date de publication: 2026-10-05 18:00:19

 ロラはまだ少し作業が残っているということらしく、長鎗の彼女、私という順で入浴した。その際、声の聞こえる位置に待機し、声を掛けられれば反応するという体制にした。私とロラを一対一にしないための対応である。

 ロラと二人になったからと言って特に何をするという気はないのだが、まあ念のためだ。

 そうして、長鎗の彼女と私はロラが二階に上がって来るまでの間、二人して毛布に包まって待つことになった。どのみち監視されているのだ、眠る時間はあまりないだろうと予想出来る。眠れないのには慣れている、平気だ。

 それよりも、入浴した後に着ろとばかりに置いてあった寝間着の方が私には慣れない。白い、首元にフリルの付いた洒落た寝間着。ワンピースであることも気になる。いざというときに動きづらいからだ。

 武装は下の階に全て置いてきている。この夜、私は完全に無防備だ。仮に今夜に夜盗が攻めてきた場合、戦力にとして参加するのは難しいだろう。

 ずっと、霧深い森の中にいるようだった。今まで防具なしに戦闘したことなどいくらでもあったはずなのに、今夜はやけに心細い。じっと
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  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode48 邂逅

      君に過酷な宿命を背負わせてしまったことを謝罪しよう。 目の前の男はそう言った。 何の話かと口にしたが、何の反応も見せないところを見るに、あちらは私の言葉が分からないらしい。 肩鎧に手甲。 長い前髪を持つ、豊かな白純の髪。 その装いや武装の雰囲気は、どこか自分に似ている。 北方の武人だろうか。少なくとも、こうして無意識の中に現れる存在だ。どこかで私と関与している可能性がある者なのだろう。 やけに自我がしっかりとした夢だ。 ただ、その一言を口にしたのち、男の声は聞こえなくなってしまった。訴えるかのように唇は何度も開閉を連続させるが、何も分からない。 何かを伝えたいということだけが伝わってくる。 私に課した過酷な運命とはなんだろう。 この白髪という宿命か、いいや違う。 彼自身が白髪なのだ。 ならば、あぁ、そうか。 声がまた聞こえる。 心から。 これからの幸せを願おう。 だからどうか。 どうか、待って。 貴方は何者なのですか。 手を伸ばす。 彼を、その声を、希うように。 私は、一体誰なのですか。 するとそれまでしかめっ面とも泣きっ面とも言えない、微妙な表情だった男の顔が、わずかに緩む。 また聞こえなくなる。 唇から紡がれる、その言葉。 待って、ください。 その言の葉を口外に投げる、その前に。 目の前は真っ白に包まれた。

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode47 「殺した人のことなんていちいち覚えていないかしら」

    フリストレールの白い亡霊。 先日、風使いが私を指すために使った言葉。亡霊はこの国では蔑称だが、外から来た者がそう呼ぶ場合は別の意味になるだろう。白髪を蔑む必要がないからだ。 私のことを別国で知る機会など一つしかない。 兵士であったことだ。 風使いは分かる。かつて戦闘要員として駆り出されていた過去があったからだ。 だが歌うたいはどうだろう。痩せすぎとまでは言えないが、抱きしめれば折れてしまいそうな華奢な女性の肉体。兵士とは思えない。魔法使いである可能性のほうが高いが、見覚えがない。「何故、エステル様がその呼称を」 その問いに、彼女は軽い微笑を左の頬だけに浮かべた。「たまたまよ。いつも歌っている街から帰る途中で、亡霊が戦争を終わらせたって言っていたわ」 言葉にはわざと遠回りしているように感じた。 何故この呼称を知っているのか、なんて私にはどうだっていい。私が聞いたのは、どうして歌うたいが私をそう呼んだかである。「そう呼ばれているのね」なんて意味を持って言われた言葉ではないように思う。 そんなことをひけらかすためだけに、わざわざ早朝にこうして私を呼んだわけではないはずだ。まるで歌という光に虫を誘い出すように。仮にそうだった場合、世間話をするために呼んだということになってしまう。しかし彼女は、口数が少ないわけではないが、今のところ決して無駄話が好きという人物ではないように感じる。 あまり村の中で頻繁に見かけないというのもあるだろう。まだ全ての村人に会ったわけではないが、彼女に関しては特に謎めいた気配がある。「……エステル様。いま村は警戒態勢です、こうして安易に身を晒すのは」 よくないのでは。 そう言う前に、気配を感じた。 何かが高速で接近する音。恐らく人ではない。歌うたい目掛けて、それは一直線に飛んでくる。無防備な姿を晒した私たちへの、代償めいた一撃。 既に、攻撃されていたのだ。 果たして、どこから発射されたのか。方角を考えれば、まだ私が見て廻れていない方だ。しかし、攻撃される方向が分かってしまえば対処は

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode46 「あなたを呼んでいたのよ」

     あれからしばらくロラのお喋りが続いた。 その最中で長鎗の彼女は眠ってしまったが、私としては未だ頭の芯まで覚めきっていて、眠りの気配は欠片もない。少しするとロラ自身も眠ってしまい、仕方なく私も少しだけ眠りにつくことにした。 少しして起きると、二人が起きるまで出来るだけ時間を稼ぐように毛布に包まりぼんやりと過ごす。窓から差し込む光から察するに、まだ旭が昇ってすぐという頃。 監視する対象である私を差し置いて、長鎗の彼女はまだ眠っている。 嘘はついていない。 少なくとも、彼女は本当にそう思ったということだ。でなければ、こう無防備に眠りはしないだろう。そしてそう至ったのは、あの不思議な瞳の力によるものと暫定せざるを得ない。 嘘か真かを見極める魔法。 そう仮定する。 なら何故初めから行使しなかったのだろう。考えられる理由としては発動できる条件があるか、或いはその力を秘密にしているかといったところか。後者の場合、少なくともロラがいる場で聞く話ではないだろう。 まだ二人とも起きそうにない。 何をすることも出来ず、首元のフリルを撫でたり毛布を握り締めたりして時間を潰す。そうしていると、どこからかそよ風めいて歌が聞こえてきた。 こんな早朝に? 唐突すぎて事が呑み込めない。はっきりと村全体に響き渡るような声は間違えなく、歌うたいのそれだ。 ただ単調に「るるる」という言葉を律動的に繰り返している。それなのに、ただそれだけで一つの芸術として昇華している。しかし今は昼時ではない。歌うたいは正午になるとヤグラで歌う役目を担っているが、いまは早朝だ。 それに警戒態勢である。日中畑仕事に行く村人に自警団が付いていく様子から、警戒態勢と知らされていないとは言い難い。 だが彼女はいま歌っている。 それになんの意味があるのだろう。 あんな、狙撃してくれと言わんばかりの高台で。 夜盗に狙撃手がいるかは分からないが、それなら投擲武器を使えばいい。その危険性を度外視してでも、彼女は歌っている。 分からない。 分からないが、どうしてだろう。 私はあの場所に行

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode45 「私の世界に貴女を虐げる人はいません」

     ロラはまだ少し作業が残っているということらしく、長鎗の彼女、私という順で入浴した。その際、声の聞こえる位置に待機し、声を掛けられれば反応するという体制にした。私とロラを一対一にしないための対応である。 ロラと二人になったからと言って特に何をするという気はないのだが、まあ念のためだ。 そうして、長鎗の彼女と私はロラが二階に上がって来るまでの間、二人して毛布に包まって待つことになった。どのみち監視されているのだ、眠る時間はあまりないだろうと予想出来る。眠れないのには慣れている、平気だ。 それよりも、入浴した後に着ろとばかりに置いてあった寝間着の方が私には慣れない。白い、首元にフリルの付いた洒落た寝間着。ワンピースであることも気になる。いざというときに動きづらいからだ。 武装は下の階に全て置いてきている。この夜、私は完全に無防備だ。仮に今夜に夜盗が攻めてきた場合、戦力にとして参加するのは難しいだろう。 ずっと、霧深い森の中にいるようだった。今まで防具なしに戦闘したことなどいくらでもあったはずなのに、今夜はやけに心細い。じっと、私を見据えるような長鎗の彼女の眼がそれを助長させている。「眠れませんか」 ふいに、長鎗の彼女が話しかける。 心の内を覗かれたように。「はい。手元に装備もなく眠ることが心もとないのです」「それは不安、ということでしょうか」「分かりません。ただ、それだけが私を護ってくれたものですから」 なるほど。そう呟いて、長鎗の彼女は黙ってしまった。ただ視線を宙に泳がしているその眼は、何か考えているように見える。どうだっていいのだ、私のことなど。ただ、今は監視しているのだから装備は返せない。そう返答してくれれば。それで、私は納得するのだから。 しかし彼女はしばらく中空を眺めたあと、やがておもむろに口を開いた。「ずっと独りだったのですね、きっと」 やめてほしい。「知っていますよ、白髪の歴史。だから目に見えて護ってくれる装備が恋しいのですか」 答えない。 ただ私は、私を理解したようなその言葉をやめてほしい。そういう言葉は

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode44 「私もそちらを使わせて頂きましょう」

     一瞬、時間の流れが止まったかのような静けさが襲う。永久に囚われて、抜け出せなくなるような深さがあった。実際には何秒かの時間のはずが、時計の針が止まったかのような感覚に陥っている。 しかしやがて、暗示的な微笑を浮かべた。「なんて、食事のときにする話ではありませんでしたね」 その言葉で、ようやく時間が再び動き出したように感じた。膝に手を置いた長鎗の彼女の姿は、先ほどの厳粛な顔つきは身を潜めて別人のような存在へと変容している。百合の花にも似た清らかな淑女。少なくとも、目の前の彼女に戦士の面影は見られない。「もうリーデったらやめてよー、騎士様びっくりしちゃうじゃん」 苦笑とも悪がりともとれない複雑な笑いかたをして、頭を曲げる。恐らくはロラなりに場を和まそうとしたのだろう。長鎗の彼女もそれに対し、すみませんなんて言いながら微笑む。 事情を理解しているのだ、ロラは。だからこそさっと話を流すことが出来た。 話から察するに、彼女は私と同じ元孤児であるが、その背景はまったく違う。彼女は故郷を知っているが既に無く、私は知らないどころか残っているかどうかも分からない。 ただ私と違って、空っぽではないように見える。敵がいるという点以外では。 喚び起こす。蝿の魔獣という単語を。記憶という暗い洞穴の中を、奥深くへと辿っていく。しかし記憶の引き出しには何も入っていない。そんな魔獣、私は知らなかった。 首都にいた頃、私は魔獣とではなく人とばかり戦っていた。戦ったことがないわけではない、ただもしかしたら、私が知らないだけで、戦争ではなく魔獣に何かを奪われた人もたくさんいるのかもしれない。そう思った。 そうして腰を据え考えていると、夕餉は既に終わっており片付けが始まっている。鍋と皿は既に調理場へ持っていかれ、またしても私は後ろめたい気持ちを抱えることとなった。この場で私は何もしていないではないか、と。ロラの指先が青く赫奕し、水流が発生した。底の深い皿を満たす程度の水量ではあるが、それがロラの手となり使用した食器を洗っている。 薬師というからには、治療に秀でた魔法使いだと勝手に思っていたが、どうやら違うらしい。「ロラは色々

  • フロムホライゾン 〜水天と白いレイス〜   episode43 「絶対に赦さないもの」

    「きーしーさーまー!」 扉を開けた途端、そんな大声が辺りいっぱいに炸裂した。なんとなく予感はしていたが、店主ほどではないにしろ予想以上のロラの声。そしてその後ろで、長鎗の彼女が結んだままの唇にかすかに笑みを浮かべている。「ロラ、もう夜も遅いので」 その言葉に一瞬、擦り傷を触られたように顔をしかめる。しかしすぐに唇を尖らせて拗ねたような表情を浮かべると、突然私の腕を掴み家の中に引きずり込んで扉を閉めた。「でも! でも! 心配したんだよ?」 ロラの顔を見たのは一昨日、店主に事を依頼されて以来となる。確かに、居候の者が丸一日以上帰ってこなければどうしたのかと思うのは道理だ。私でさえ同感である。もし理由が伝わっていないのなら、その不安はさらに増す。 そういった点で言えば後ろめたい気もする。ただ、出会って四日しか経っていないのだ。この私に対して少し大袈裟ではないか、とも思う。 ロラはひとしきり刺し貫くほど私を睨めつけておいて、やがて草のような息をひとつ吐いた。「心配したんだから」「……申し訳ありません」 その言葉に、またむっとして私の額から鼻にかけた辺りを目でむちうつ。私を心配してくれたとして、何に対してなのか。それに、心配された経験がほとんどないのだ。 まだ、その言葉には慣れていない。「まあまあロラさん、その辺で」 長鎗の彼女が宥める風に言うと、その鋭かった感情が次第に溶けていく。そうしてロラはふうと一息入れたあと、木製の肘掛け椅子に背中を押し付けるようにして座った。 弁解するなら、タイミングが悪かったと言うしかない。不在の間にタイミング悪く野盗が来てしまった。いわば不可抗力である。ただそれに対し何か言うでもないし、私はロラの文句に反論する気もない。「理由は聞いたけどさぁ」 今日何度目かの唇の尖り。「だったら尚更騎士様別に悪くないじゃん」「可能性がある限りは仕方ないことなのです」 そうだけどさ。 言ってロラは台所に移動すると、そのまま鍋に火をかけた。指を

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